こんにちは。
岡山・倉敷エリアを拠点に、不動産と資産形成の専門家として活動している
1級ファイナンシャルプランナーの佐伯です。
最近、大きなニュースになっている「みんなで大家さん」。
年利7%という触れ込みで多くの投資家から資金を集めていましたが、
今、分配金の支払いが止まるという深刻な事態に陥っています。
この問題、決して他人事ではありません。
なぜ多くの人がこの「7%」という数字に惹かれ、そして今、頭を抱えることになったのか。
今日はその構造をプロの目線で深掘りし、皆さんが投資で失敗しないための重要な考え方をお伝えします。
多くの人を惹きつけた「みんなで大家さん」の仕組み
まず、「みんなで大家さん」の仕組みを簡単におさらいしましょう。
これは、大勢の投資家から資金を集め、一つの大きな不動産事業(商業施設や物流倉庫など)を行い、
そこから得られる賃料収入などを投資家に分配するというものです。
法律(不動産特定共同事業法)にもとづいた投資の枠組みの一つです。
最大の魅力は、なんといっても「年利7%」という目標利回りでした。
銀行預金の金利がほぼ0%のこの時代に、この数字は非常に力強く、そして魅力的に響いたことでしょう。
なぜ7%は「危険な高利回り」だと思われなかったのか?
ここで一つ、この問題を根深くしている重要な心理について触れなければなりません。
多くの方は「年利7%」と聞いても、「危険すぎる高利回り」とは感じなかったのではないでしょうか。
というのも、私たちがニュースで見聞きするような典型的な投資詐欺、
いわゆるポンジ・スキームは、「月利5%(年利60%)」や「年利20%以上を確約」といった、
誰が聞いても現実離れした数字を謳うことが多いからです。
それに比べると、「年利7.0%」という数字はどこか現実味があり、
地に足のついた堅実な事業から生み出されるリターンであるかのように見えてしまいます。
この「高すぎない、でも十分に魅力的」という絶妙な数字設定こそが
多くの人の警戒心を解き気づかぬうちにハイリスクな投資へと
誘い込む要因になったと私は考えています。
これが、今回の問題をより厄介なものにしているのです。
不動産投資の世界で、リターン「7%」はどう見えるのか
では、私たち不動産投資のプロの世界で
この「7%」というリターンはどのように見えるのでしょうか。
私たちが物件の収益性をシビアに判断する際「NOI利回り(Net Operating Income Yield)」という指標を最も重視します。
これは、満室時の家賃収入から固定資産税や管理費、修繕費、そして空室による損失などを差し引いた、
いわば不動産の「純粋な儲け(手残り)」が、物件価格に対して何%あるかを示すものです。
もしこの手残りであるNOI利回りで7%を達成しようとすれば
単純な家賃収入全体で見る「表面利回り」では10%、
物件によっては12%以上が必要になります。
では例えばここ岡山・倉敷エリアで、表面利回り12%の物件とはどんなものでしょうか。
それは、築年数がかなり古かったり、駅から遠く交通の便が悪かったりと、
常に空室や入居者トラブル、そして高額な突発的修繕といったリスクと隣り合わせの物件です。
つまり、「みんなで大家さん」が提示していた7%というリターンは、
本来、相応の覚悟と専門知識を持って臨むべきハイリスクな投資でしか、実現が難しい水準だったのです。
そしてリスクは現実になった
その見えにくかったリスクは、残念ながら現実のものとなります。
運営会社は国から「投資家への説明が不十分だ」として行政処分を受け、財務状況が悪化。
そしてついに投資の根幹であるはずの分配金の支払いが遅延し、現在も支払われていないという事態に至っています。
あなたの資産を守るために、今こそ知るべきこと
「年利20%はさすがに詐欺だと思うけど、7%くらいなら大丈夫だろう」。
そう思った方がいたとしても、決して不思議ではありません。
しかし今回の件が私たちに与える最も重要な教訓は、
投資の世界にノーリスクなリターンは絶対に存在しないということです。
私はいつも現代において年率1%を超えるリターンを目指すのであれば、
そこには必ず「元本が減るかもしれない」というリスクが大小なりとも伴う
と考えるべきだとお伝えしています。
大切なのはリターンの数字の大小”だけ”で判断するのではなく、
その魅力的なリターンが一体どのようなリスクの上に成り立っているのかを理解しようとすることです。
今回の問題を自分自身の資産形成の教訓として、ぜひ心に刻んでいただければと思います。